fragment

-下書き-

ひと夏の神話

神話とは一回限りの出来事の説明だという。

 

何か色々とこの映画について考察をしたけれど

言葉多く語ろうとすればするほど陳腐になるように思えて、

やめてみた。原作未読。

 

君の名前で僕を呼んで 

飾らない感想を述べるなら

こんな相手を見つけるために生きているんじゃないのか、私たちは

だから彼が羨ましかった。

出会えて、見つけられて、視線を交わし、名前を呼ぶことができ、お互い「忘れられない者」になることが出来た。

"I remember everything."

離れ離れにはなったけど、忘れないだろう。何一つ。

(人間に死は二度やってきて、忘れ去られた時が本当の死だという。そんなことを思い出した。)

彼らは互いの名前を抱き、存在する限り互いに共に在るのだ。

 

映像と音楽がとても良くマッチしていた。本当に、とても。

Sufjan Stevensがこの映画のために書き下ろしたという曲たち。

トレイラーを観た時からこの曲が全てだという感じがしていたほどに。

最高、最高、最高。

映像と音楽の幸せな関係。(まるで劇中の2人のように?)

映画は本当にこうあるべきだ。

 

長回しが続いたかと思えば、音楽の余韻も容赦なく場面が移り変わることもある。

断片の繫ぎ合わせのように。思い出とは断片的なものだからだろうか。

映像が醸し出すリズムが心地よい。

美しいピアノと

断片的な会話の応酬と、重複と

カットもそう、アングルも、重複が効果的だった。

時折挿入される古代の逸話

引き上げられた彫像。曲線を描く肉体の彫像。

彫像は、人の記憶の具現化の最たるものではないか?

 

重複というのか反復というのか、妥当な表現がわからないけど、

later!は言うまでもなく。

Right now? Right now!

お揃いのペンダント

流行のポップソング

別視点でマルシアとエリオ、エリオとオリヴァー、重複する関係性。もしかしたら両親の過去も。

そういう反芻する様子を重ねて、エリオがオリヴァーとの同化を求め、それを実現していく様が描かれていく。

だけど別れがくることがわかっている。わかっていて身を捧げた。

言わなかった "later!" 去っていく列車。自分の名前を持った分身が。

 

オリヴァーを見送り、帰ってきたエリオは夕食をパスした。

彼の世界に侵略者としてやって来た最初の日、彼がそうしたように。

 

映像には映し出されなくとも、エリオが彼をなぞるような行動を様々なところで取っていたんじゃないかと想像した。それでまた胸が痛くなる。

 

 

 

好きな言葉がある。

それは君だったから

それは私だったから

 

「オリヴァーはオリヴァーだよ 」というエリオの言葉に父親が返す詩の一片。

はじめて聞いた言葉ではないのに、今の私の心にとても響いた。

オリヴァーはオリヴァーだよ、...

「羨ましく思う」とエリオに語りかける父親に、

エリオもオリヴァーの年齢もとうに超えてしまった私は一番共感していた。

心のままに正直になれて、互いを見つけた。誰からの否定もなく。

この言葉に全てがあるように思えて、女だとか男だとか、とにかくそういうことじゃなく、

それはオリヴァーだったから。

 

彼は17歳だ。どんな哲学の天才なの。

私はこの自分でいいと思えるまで随分とかかった。性のことや他者との付き合い方や。それでもたぶん一生、手探りなんだけど。

30歳までにすり減らしてしまった多くのこと思って苦しくなる。

限られた時間と、熟れゆく果実と、同じ夏は来ないこと、全てが刹那的でだから美しいのだと。

そんな1983年の夏の少年の....神話だ。

 

 

映画を観たというか

一人の少年の思い出を体験したというか。

きっと生涯心に残る。すごく大切な、思い出になった。